20年前に戻って

コオがヘミシンクのCDを買った。クラシックギターの名曲が収められているアルバムだ。その最初の曲はアラビア風奇想曲で、かなり雰囲気のある素敵な曲だ。

私は大学でギターサークルに入っているときにこの曲を弾いた。大学3年の部内発表会のことである。本番は緊張でガチガチになっており、情けないほどの音しか出せなかったが、普段の練習ではまあ一応曲として聴けるレベルには仕上がった。

実はこの曲にはもう一つ別の思い出がある。それは大学を卒業してから基礎をやり直したくなって新堀ギター教室のドアをたたいたときだった。数回のレッスンを経た後に先生に尋ねられた。

大学のギター部には指導者がいたの?

いいえ。

大学に入る前にギターを弾いたことは?

いいえ。

今まで弾いた曲の中で一番難しかった曲は何?

3年の時に弾いたアラビア風奇想曲です。

・・・その時に、先生がえっ、といって少し間をおいてからあれはいい曲ですねと続けたのだが、一瞬返答に困るような顔をされたのが妙に心に残った。

その後数ヶ月して先生のリサイタルが小さな喫茶店で開かれて、たくさんの名曲を弾いてくださったのだが、その最後を飾ったのがアラビア風奇想曲だったのである。

私はその時に、ああこの曲はかなり高度な曲なのだということを知った。それを私が指導者もいないサークルで、先輩にギターの持ち方から教えてもらいながら弾いたと聴いて、先生からすればかなり意表をつかれたものだったに違いない。

けれども私は、というか私たちは曲のレベルなんてある意味おかまいなしで、皆弾きたい曲を弾いていた。そして実際かなり難易度の高い曲を普通に練習していたように思う。そんななんでもありの楽しいサークルだった。

それより困ったことに、私はそれ以来アラビア風奇想曲レベルの曲に手を出せなくなってしまった。スペイン舞曲第5番やオリエンタルやカバティーナなど大好きな曲はたくさんあるのだが、どこかで「今の私のレベルにあった曲を弾いた方がいいのじゃあないのか」と余計な思考がはいるようになってしまった。実際、教室では初心者レベルの宿題をずっと出されていた。ということは、私のレベルはまだそこだといわれているようなものだったからだ。

教室は仕事が忙しくなったために、半年ほどで辞めたのだけれども、そのことは今も尚心のどこかに引っかかっている。私の中で何かがストップしたあの瞬間に戻ってそこからもう一度やりなおしたい、つまり好きな曲に遠慮なくチャレンジする気持ちをもう一度思い出したいとアラビア風奇想曲はそんな郷愁を感じさせる一曲なのである。
by m_alchemia | 2009-03-30 18:27 | 日々の想い