脳のはなし

赤坂オフィスへ出向くときに私は銀座線の溜池山王の駅を使うのだが、その駅に丸善の小さなブックショップがある。私は仕事の帰りにその書店に立ち寄って手軽な本を一冊買って電車に乗り、気分転換をはかりながら家路につく。それがひとつのささやかな楽しみになっている。大概は推理小説のような1,2時間で読みきってしまうような軽いタッチの本だ。

そういう経緯でつい先日「海馬」という本を買った。糸井重里氏と脳の研究をしている池谷裕二氏の対談本で、数年前に話題になったものの文庫版である。

「海馬」というのは脳の一部の場所だ。
先日たまたま「退屈」について記事を書いたのだが、ネズミであっても何の刺激もない退屈な場所に置いておくと海馬の神経細胞がどんどん減っていって結局は長生きしないと書いてあった。逆にそんなネズミでも刺激があるかごに移し変えると数日で海馬の細胞が増えていくという。そしてまた脳は退屈を嫌う一方で、安定を求めるという性質があるので、「退屈」と戦いつつも安定を求める脳に常に挑戦していくということを、私たちは人生の上で求められる。それは人であってもネズミであっても変わらないのだそうだ。

ふ~ん。人生如何に生きるべきか、などと考えていたところだったけれど。
なんだかネズミに親近感がもてた。

面白かったのは脳の中にはやる気を起こさせる場所というのがあるということだった。つまりその場所をうまく活性化してやれば人間は(ネズミも)やる気がでるという。側座核(そくざかく)という、脳をりんごで例えればりんごの種くらいの小さなものがそれだという。それが左右に一つずつある。

おもしろいのは側座核は外から刺激を受けないと活性化されにくいという点だった。

つまり、やる気を起こさせるには何かをやらないといけない、ということなのだ。やる前からやる気が起こるということは脳のしくみからいくと難しいということなのである。私はやる気が起こらないからやらないのに・・??なんだか明らかに矛盾している。。。

たとえば掃除をするのや嫌だけれど、掃除をしているうちに調子が出てきてだんだん一生懸命にのめりこんでいく、というのがこれに当たる。
要するに「あまりやりたくなくてもとりあえずやってみるしかない」ということに落ち着くのだが、昔から言われていることを脳という最先端科学が研究の中で発見しているということが面白かった。

脳ってこんなに矛盾だらけの性質を抱えているものなのだなぁ・・という驚き。けれどもその矛盾があるおかげで、私たちはさまざまなアクシデントに対応できる順応性をもっているのだ。

脳がこんなに矛盾した性質をもっているのなら、自分の人生に多少の矛盾があったって、それはしょうがないねという気持ちになった。それよりもその矛盾を楽しみたいと思った。

ちょっと嬉しいことも書いてあった。海馬の脳細胞は年を重ねてもどんどん増えていくのだそうだ。そして脳はだいたい30歳を境にしてその使い方が変わるのだそうだ。つまり年をとってからの方が得意な記憶というものがあるというのである。だから年をとったから物忘れがひどくなるというのは科学的に間違っていると池谷氏は言っている。

その記憶に大切な役割をしているのが「海馬」。その海馬の細胞は生活に刺激を与えることでどんどん増えていく。

「脳にとって大切なのは人生に慣れてしまわないことなんですね」

いろいろと示唆にとんだ面白い本であった。
by m_alchemia | 2005-07-16 22:56 | 日々の想い